2008年09月21日

寝床

「三人寄れば虫の知恵」を読み返していたら、奥本大三郎が「図鑑を真似して絵ばかり描いていました」と語っている部分を見つけた。「今でも図鑑は見ませんか?」と養老孟司が問いかけると、「枕元に積んであります」と答えている。
「枕元に積む」のだから奥本先生の寝床はベッドではなく和式の布団なのだろう、と思った。そして、そういえば、僕自身も昔は畳の部屋に敷いた布団の上で、枕元に漫画や教科書やそれこそ図鑑などはべらし、時には奥本先生と同じように挿絵の模写なんかしたものだったなあ、などと懐かしく思い出した。

僕が自身の寝床を和式から洋式に切り替えたのは、確か中学校後半のことであった。そして、考えてみれば、僕はその時ひとつの天国を失ったのである。
何故なら、ベッドは空間を切り取るが、和式布団の枕元は、そのまま部屋全体の床とつながっているからで、手を伸ばせば(あるいはごろごろとそこまで転がって行けば)すぐに何にでもアクセス可能な和式布団は、確かに(子供だった)僕の天国だったのである。
これは、あるいは単なる感傷であろうか。

僕の父は、中年になったある年に、さる旅館の布団敷きの仕事に就いた。昔から「ひと儲け」を企む癖のある人で、何度も何度も職を替えたが、結局、この「番頭さん」が一番長続きしたのではないだろうか。
妻と僕は新婚当時の僅か2年足らずの期間だけアパート暮らしをしたが、そこで布団を敷くのは僕の役目だった。シーツをぴんと張って、きちんと敷布団の縁に折り込んで行く僕を見て、妻はよく「日本一布団を敷くのが上手い」と褒めてくれた。
そんなことにまでDNAが影響を及ぼすのかどうか不明だけれど、そう言われると僕はとても誇らしく、嫌いだった父のことも何だかほんの少しだけ好きになるような、そんな気がするのであった。
posted by og5 at 16:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 記憶 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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