2008年07月07日

シリトーを想起させる労働者階級的リアリズム〜「コントロール」

コントロール デラックス版コントロール デラックス版
サム・ライリー, サマンサ・モートン, アレクサンドラ・マリア・ララ, アントン・コービン

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ジョイ・ディヴィジョンには、僅か2枚のオリジナル・アルバムしかない。バンドの中心的存在であったイアン・カーティスが、1980年5月に自殺してしまったからである。2枚目のアルバム「クローサー」が発売される直前の出来事であった。
僕は彼等のリアル・タイムのリスナーではなかった。彼等自身が、僕のリアル・タイムであった70年代パンクに少し遅れてデビューしたこととそれは無関係ではないが、そもそも80年頃には、パンク〜ニュー・ウェイヴがあまりにも拡散し過ぎていて、何もかにもをフォローすることが僕には既に不可能になっていたのである。

「コントロール」は、そんなジョイ・ディヴィジョンのカリスマ、実は若くして結婚し癲癇の発作と治療薬の副作用に怯えながら日々を過ごすナイーヴなマンチェスター青年であったイアン・カーティスの苦悩と鬱屈の日々を丹念に追いかける。数々の「ロック」に彩られているにも関わらず、まるでイギリスの労働者階級の生活を描いた小説でも読んでいるのではないかと錯覚してしまいそうになるくらい地味な映画であった。
実際、この映画を観て僕がまず連想したのはアラン・シリトーの一連の小説だった。シリトーが活躍したいわゆる「怒れる若者達」の時代は、今からもう半世紀以上も昔のことである。

イアンには(後に病気の影響とバンド活動との両立が難しくなり放棄してしまうとはいえ)少なくともちゃんとした職というものがあった。だから、単純にイアンとシリトーを結び付けるのは乱暴なのかも知れないが、しかし、早い結婚、子供の誕生、退屈な日常とそこから脱出する手段としての非日常、地道な生活を望む妻とのすれ違い、何かを創り出したいという熱情と未来という名の重圧・・・。僕はやはりどうしてもそこに伝統的な労働者階級の若者の姿を見てしまうのである。
いや、シリトーの描く若者はもっとずる賢くしたたかであった。もっと生命力に溢れていた。結局そこが「時代」の違いであり、またこの映画の実直なところでもあるのだ、と僕は思う。

ほぼそのままイアン・カーティスだったサム・ライリーはもちろん素晴らしかったが、この映画の労働者階級的リアリズムの実現は、おそらく妻デビーを演じたサマンサ・モートンの存在感によるところが大きい。
アントン・コービンはこれが監督第一作目だというが、何という落ち着きっぷりであろう。
これを「長距離ランナーの孤独」のトニー・リチャードソンが撮ったらどうなっただろうか、などとあり得ないことを妄想しつつ、僕はまたシリトーの小説を思い出しているのだが。

※FORUS秋田8Fシネマパレにて7月18日まで上映中。
 (1)10:20〜 (2)18:30〜


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posted by og5 at 21:50| Comment(5) | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
長距離ランナーならぬ、売れっ子ロッカーの孤独っつうとこですかね?
しかしハッピーマンデーズにしろプライマルスクリームにしろオアシスにしろ、グラスゴーやマンチェあたり出身のミュージシャンって、もし売れなかったら昼間っからBEERをあおり、サッカー観戦だけが楽しみみたいな労働者階級にうじゃうじゃいそうな人達だよね。
そのへんがもろ好きなゾーンなのですが・・・
サム・ライリーのライブでのノリがおもろかった!そして妻役、サマンサ・モートンのリアリズムといったら・・・すっかり中年の体形になりつつあったけど、足だけは長かったなぁ。
ニューオーダーに続くこの音、やっぱり好きでした。
Posted by Fuming at 2008年07月08日 11:23
イアンの墓、盗まれちゃいましたね。


さて、サム・ライリーってジョニー・ノックスヴィル(リンガーの主役)に似てませんでした?それが気になって映画に集中出来ませんでした。
くだらない感想ですみません…。
Posted by 川口 at 2008年07月08日 16:15
売れずにビア飲んでるのはスティッフ系の連中こそ似合うのでは?
悦び部も新規注文も来るものがなかったなあ。フミさん、ここらへん聴いてたんだ。
話は変わりますが、誰だったか、日本一オルタナな人物に水木先生を挙げてたっけ。乱文失礼。
Posted by らばそのらっぱ at 2008年07月09日 16:42
>らぱそのらっぱさん
この前og夫妻と久々、歌いにいっただよ!
3人でロック・ザ・カスバ熱唱だよ。いけてるべ?おれら・・・
今度らっぱもさそうべ!って話てたんだ。
行くべし!
OGこんなとこですまん・・・
Posted by Fuming at 2008年07月09日 17:40
>Fuming

この頃って鉄の女・サッチャー政権時代だよね。
失業者あふれまくり、アート・スクールしか行くとこない、みたいな感じ。
何でもサッカーと結び付けるのがさすがFumingです(でもグラスゴーはスコットランドだぞ)。

>川口クン

そう言われれば似てるようにも思えるけど、そんな雑念があったんじゃ、そりゃ集中出来んわな。
僕は(名前は知らないんだけど)日本の役者にそっくりな人がいると思って観てました。
増村保造・若尾文子特集楽しみにしております。

>らばそのら

どういう意味でオルタと言ってるかにもよると思うけど、水木先生が敬愛する南方熊楠という人がそもそもオルタだったのでしょう。
でも、偽りのサブカルがメインの現代では、みんな揃ってメイン・ストリームかも。
実は僕はオルタな音楽は苦手です。
ニルヴァーナもダイナソーJr.も。
僕の中では、蛭子先生がかなりオルタ度高いです。

>再びFuming

今度は「ゲゲゲの鬼太郎」大合唱だ!

>ひとりごと

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Posted by og5 at 2008年07月09日 21:52
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