2006年10月18日

「NO DIRECTION HOME」と夜明けの口笛吹き

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驚くのは、ボブ・ディランが、「こんなのはフォークじゃない」と非難されていたことである。
コンサート会場出口で、あるファンは「(ディランは)大衆に迎合している」と言い、その「ロック」転向を蔑むように笑った。彼(このファン自身)は大衆ではないのだろう。また、彼が言うところの「フォーク・ソング」は、大衆の音楽ではないのだろう。
多分、この時、ボブ・ディランは、既にアイドルだったのだ。
彼がもしアイドルでなかったならば、これほどまでに非難されることはなかっただろう。

彼は、音楽以外の何物かを背負っていた。表向きにはたまたま「フォーク・ソング」と呼ばれていたけれども、それは実は大衆の欲望だったのだと思う。
彼には、大衆にこびへつらう義理もなかったし、そういう感性も(もしかしたら)なかったから、気持ちのおもむくままに自分自身の歌を作った。彼は、もしかしたら、自分が背負わされていたもの、あるいは勝手に結び付けられていたあるイメージに、本当に無自覚だったのかも知れない。が、もし、自覚しつつあえて「ロック」に転向したのだとしたら、それもまた驚くべき反射神経である。

ボブ・ディランは「フォークじゃない」と非難されたが、70年代にはインテリの評論家に「ロック」じゃないと批判された多くのバンドやミュージシャンが存在した。インテリにとっては、自己投影して自分に都合のいい何事かを都合よく物語ることの出来る都合のいいものこそがいつだって真実である。だから、彼等を単純に信用することは出来ない。彼等は、決してそう告白することなしに、いつでも自分にしか興味がないからだ。
そして、困ったことに、それは何もインテリだけの特権ではないのだ。

ジャンル(あるいはステレオタイプの一切の取り決めごと)にとらわれない、ということが確かに一時期「ロック」の謳い文句ではあった。しかし、人は、とらわれないということにさえとらわれてしまう生き物である。つまり、何ものにもとらわれないのが「ロック」だと言えば、その「何ものにもとらわれない」ということにこだわるあまり、自ら拘束衣の中に自分自身を押し込めてしまうのである。
そして、ここに「何ものにもとらわれてはいけない音楽」という、世にも不自由なジャンルが誕生する。

牧歌的に自身の裡にある雛型に当てはめて音楽を選別するか、わけの判らない理屈の自家中毒に陥って何でもかんでも取りあえず拒んでみせるか、それは結局全く同じことなのだと僕は思う。「NO DIRECTION HOME」を観て僕が感じたのは、ロックでもフォークでもいいのだ、というごく単純なことであった。
呼び名などどうでもいい。
スタイルなどどうでもいい。
何か心にグッと来る物があるかどうか、心にグッと来る「何か」を感じる心を持ち続けることが出来るかどうか、ただそれだけが夜明けに誰にも聞こえない口笛を吹き、そして「これ」と「それ」とを分かつのだ。
posted by og5 at 22:06| Comment(4) | TrackBack(0) | 音楽 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
サルートン!柴田氏の御案内で、やっと辿りつきました。
盛岡のパクシイと申します。
作品の方は2作とも聴かせて頂きました。
きれいに仕上がってますね。
ブログもゆっくり拝見させて頂きます。          ではまた。
Posted by pexy at 2006年10月22日 13:39
>パクシイさん

はじめまして(「サルートン」と言った方がいいかな・・・)

「柴田氏」とはあの柴田さんですね?
2度程お会いしたことがあります。
実は、彼にお会いする以前に、勝手に「パクシイ日記」に辿り着いたこともあったんですよ。
気が向いたら、是非また遊びに来て下さい(私も勝手にのぞかせて頂きます)。
Posted by og5 at 2006年10月22日 17:29
og5さんどうも。あの柴田です。

ふとog5さんのブログを見てないなあと思い、久しぶりにやってきました。(呼ばれた?)

「長い日曜日」を読んでコミットをゲット。それでコメントをめくってきたらパクシィの書き込みを発見してビックリ!

ちょっと書きたくなりましたが、何かあるかな。
私は飲み歩きがまあ趣味なのですが、最近は日暮里にボサノバ・ライブのバーを発見したのが収穫でした。日本人の20代の若者たちがブラジル音楽(サンバなども)をやっているんですね。私は古いボサノバしか知らないですが。

あと一件、紹介させて下さい。
私の飲み友達のSaitoh Makoさんが自作の小説を公開していますのでよろしければ目を通してあげて下さい。なにやらメルマガもあります。(商業ベースのサイトで恐縮ですが)
http://www.alphapolis.co.jp/dream.php?ebook_id=1061477

それでは、またよろしく。
Posted by 柴田 at 2006年10月27日 11:22
>柴田さん

お久し振りです。
11月4日、東京国際フォーラムにジョアン・ジルベルトを聴きに行きます。
僕自身は、ボサノバについて詳しいわけではないのですが、とにかく妻が大好きなのです。
僕もとても好きなのですが、どうも最近「知識」を得ようとするパワーが減退しているようです。
これではいかんなあ、と思いつつ、だらだらと酒を飲んでいます。

ご紹介頂いたサイト、まだじっくりと見ていません(字がこまくてちょっと眩暈が・・・)。
お友達の作品、是非読ませて頂きます。

では、また。
※そろそろ三作目が完成します!
Posted by og5 at 2006年10月29日 13:00
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