2007年07月12日

最後にやって来る強烈なコントラスト〜「明日、君がいない」

ムラーリ・K・タルリ監督の「明日、君がいない」が始まると、僕は少し居心地が悪くなった。予告編を観た感じ、観る前に妻と交わした会話などを思い出して、それにしてもあからさまに「エレファント」だなあ、と改めて思ったのである。

「エレファント」は、コロンバイン高校で起こった銃乱射事件を題材にして作られたガス・ヴァン・サント監督のカンヌ映画祭パルム・ドール(及び監督賞)受賞作で、事件前の高校生達の日常を、視点と時間をずらしながら織り合わせるように再構築するという独特な手法を駆使して作られた素晴らしい映画だった。

高校生達のありふれた日常の中にある日突然起こるショッキングな事件、という点がまず似ている。当然、舞台もほとんとがキャンパスの中だ。そして、「明日、君がいない」においても、視点と時間をずらして事実を多面的にとらえる、という手法がやはり使われている。
僕は思っていたのだ。
大丈夫なのだろうか、と。

しかし、カラーで描かれる「ドラマ」部分とモノクロ画面のインタビュー部分を積み重ねることによって徐々に明らかになる、そしてリアルになって行く高校生達の悩みやアンバランスが、僕のそんな不安をすぐにきれいに消し去ってくれた。
僕の興味は、いったい誰が死ぬのだろう、に変わっていた。

映画の冒頭で、「誰か」が死ぬ。閉じられたドアの向こう側で「誰か」が死に、ドアと床の隙間から「誰か」の血が流れ出す。
確かに「誰か」が死んだのだ。では、いったい「誰」が死んだのか。
高校生達の悩みや問題がシリアスなものだということが明らかになれば明らかになるほど、謎が深まって行き、そして僕の好奇心は刺激された。
正直に言えば、僕は楽しんでいたのだ。

そしてまたしかし、最後にその「誰か」が誰であったのかが明かされた時、僕は震えた。まず、生々し過ぎる「死」の場面に、次いでそのあまりの理不尽さに。
すごいのは、この時、死ななかった高校生達の悩み、数々の問題が、一気に、本当の意味でリアルになったことである。
彼等は生きている。最後まで本当に確かな理由など一切明らかにされず文字通り血の海の中で死んでゆく「誰か」と強烈なコントラストを作って、彼等の「生」が輝く。

この映画の原題は「2:37」という。
この時、「誰か」が死んだ。
ムラーリ・K・タルリは、見事に観客を操り、そして自らが伝えたいことを余すところなく伝え切った。
これはすごい映画である。

※「明日、君がいない」はまだDVD化されていないので。
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posted by og5 at 21:55| Comment(7) | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
本当にエレファントに似ていましたね。
ムラーリはガス・ヴァン・サント チルドレン?と感じてしまいました。

結構、独白部分がくわしくって、想像する場面が少なくないか?と思ったけど、冒頭部分の鮮血を意味するものが、思いがけない方向からやってきたので納得でした。

いつも外国映画のスクールものをみると、授業が終わると同時に廊下にあふれだして、自分のロッカーで物の出し入れしたりする姿に憧れます。
でもある意味、これからの人生や社会の縮図をみてるようで恐くもあるね。

さあ、明日から「リンガー」だよ!
Posted by Fuming at 2007年07月13日 15:03
>Fuming

あのインタビュー部分が実に巧みなんだと思いました(言葉で説明してるように見えて、本当のところには絶対辿り着けない)。
アガサ・クリスティのミステリィを読んでるような感じがしましたね、僕は。
あれ、インタビュアーは多分ポアロなんだよ。
Posted by og5 at 2007年07月13日 18:09
見たんですけどねー、最後までわからなかったですね。
本当に自殺しちゃう人の真実って、
やっぱり生き残った者にはわからないのかな?

ただ、スティーブン君は死なないって思ってました。一、二位を争う気の毒さだけど、家族を愛し愛されてるようなのが救いだったので。
私、甘いかな?
Posted by としぴー。 at 2007年07月14日 18:59
やっと二日酔いから復活したtomoskaです。久しぶりにサルの家にきました。「かわいいコックさん」最高です!(ならそっちにコメントせ〜よ!)

としぴー。さん、私は最後に彼女だったと知ったとき愕然としました。私的にはあまりにリアルだったんです。未だに結構この映画引きずってるんですよ〜、私。
Posted by tomoska at 2007年07月16日 20:07
>としぴー。様

何故死んだのかが判らなかった、ってことですか?
それは、判りませんよ。
スティーブンには、黒いズボンはけばいいのに、ってずっと思っていました。

>tomoska

ならそっちにコメントせ〜よ!
Posted by og5 at 2007年07月16日 21:43
ogさんはこの映画のラストに震えたんですね。
私は背筋がゾクゾクっとしました。
そして、ogさんの記事を見て思わず頷きましたです。さすが!!ホント凄い映画観れて川口君に感謝です。
次は「キサラギ」に期待大です。

ところで、ご参考までに「かもめ食堂占い」を貼り付けますので、是非ご覧ください。
http://u-maker.com/201874r.html
Posted by さるとびE at 2007年07月17日 21:10
>さるとび食堂賛江

わざわざ済みません。
早速確認。

ああ、そうか。
でも、何か聞いたのと大分違うみたい(笑)。
でも、オーケーです。
これでばっちり感じ掴めました。
乞うご期待、です。
Posted by og5 at 2007年07月17日 21:25
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